日本のロマネコンティを目指す蔵元の挑戦(姫路市 - 日本酒/龍力)

“日本酒のふるさと”播磨にある「龍力(株)本田商店」(姫路市)は、地酒ブームの先駆け的存在となった蔵元。ワインの世界でよく聞かれる「テロワール」の概念を日本酒に落とし込み、日本のロマネコンティと呼ばれる至高の酒づくりに取り組まれています。そこにはどんな情熱と展望があるのか、5代目蔵元本田龍祐さんにお話を伺いました。

掲載日
2022.01.27
最終更新日
2026.02.13

1979年生まれ。2002年に東京農業大学の醸造科学科を卒業後、都内の「酒造コンサルタンツ地酒の杜」で3年間勤務。酒に関する書籍の出版に携わる。2005年、地元・兵庫県姫路市に戻り、父・本田眞一郎社長が営む酒蔵「龍力(たつりき)」に入社。2021年10月、5代目蔵元に就任。

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本田 龍祐(ほんだ りゅうすけ)
日本のロマネコンティを目指す蔵元の挑戦(姫路市 - 日本酒/龍力)

ロマネコンティが教えてくれた酒造り


「私が社会人になる前だったかな。ある日父親に “俺が酒の飲み方を教えてやる”と連れられ、イタリアンと寿司屋をはしごして、うちを代表する大吟醸『米のささやき』を一緒に飲んだんです。そこで、酒に合う料理だとか、悪酔いしない飲み方だとか、いろいろ教えてもらいましたね。その時は、お酒の良し悪しについてまったく知らなかったのですが、親父の話を聞きながら飲むウチの酒がほんとおいしくて、2人でぐびぐび飲んでしまいました」。


そう言って柔らかい笑顔で語る本田龍祐さん。2021年で創業100年を迎えた歴史ある酒蔵「龍力(株)本田商店」に、新しい風を巻き起こしている5代目代表取締役社長です。



1985年、「龍力」の大吟醸『米のささやき』は、全国新酒鑑評会にて姫路酒造組合初となる金賞を受賞。一躍話題になりますが、そこから10年以上「龍力」が表彰の舞台に立つ機会はなく、苦悩の日々が続きました。その際「龍力」の手本としたのがワインの王様・ロマネコンティ。当時の会長で龍祐さんの大叔父にあたる3代目・本田武義(たけよし)さんと、父・眞一郎(しんいちろう)さんは、酒造りのヒントを探しにロマネコンティの生産地・フランスのブルゴーニュへ出向きました。


「龍力がテロワールを意識した酒造りを始めたきっかけは、このフランス遠征でした。テロワールって、元々フランス語の「terre(土地)」から派生した言葉なんですよね。ブルゴーニュは隣り合う畑でも土壌の性質が全くちがっていて、土地の味が色濃く出る。それに、ぶどうの木1本に対して1人の生産者がつくほど、手をかけて育てるんです。テロワールを最大限に生かし、手間暇を惜しまず人の手をかける。それを現地で“見て”、“触れた”経験が今の龍力のベースになっています」。



日本へ戻って2人が出向いたのは、酒造りにおける最上級のテロワールが揃う加東市秋津。最高品質の酒米・山田錦が栽培される兵庫県の「特A地区」の中でも、さらに超優良地区とされるエリアです。


「良質な酒米が育つ条件は、海から離れた谷間で、出穂期に昼と夜の気温差が15度以上あり、水はけがよく、粘土質な田んぼであること。稲はもともと真水の沼や湿地で育つ植物のため、塩が多くふくまれている水や土で栽培すると、根が水をうまく吸えなくなったり、逆に稲の水分が土に吸われたりすることで、稲が弱ってしまいます。また、夜の気温が高いと、稲が昼間の光合成で蓄えたデンプンを消費してしまうため、出穂期に昼と夜の気温差が15度以上あることで、甘みのある米が育ちます」。


「秋津は緩やかな南斜面にあり、水が下の方に溜まるため、田んぼの表面は乾きやすく、下層部は乾きにくい。肥料や水分を保つため下層部は粘土質な地が最適ですが、表面は根腐れを起こさないために、ほどよく水はけがよいというのが重要で。秋津こそ、“水はけが良く”、“粘土質な地”を両立する希少な地なんです」。


テロワール要素が揃う秋津の地で、「龍力」は1996年に全国初となる米農家との専属栽培契約を締結。有機肥料や低農薬、「への字型栽培」、「稲木架け自然乾燥」など栽培方法を指定し、「龍力」のためだけの酒造好適米を作る取り組みを始めました。


「への字型栽培」とは肥料の管理法を表すもので、一般的な「V字型栽培」より手間暇がかかります。
「V字型栽培っていうのは、田植えをする前から田んぼに十分な肥料をあげて、足りなくなればまた増やしていく。この肥料をあげるペースをV字で例えています。管理は楽ですが、常に稲に栄養が行き渡っているため、稲が自分で根をのばそうとしないんです。一方で、への字型栽培では、最初から肥料はあげません。そうすると稲が自分で栄養を取り込もうと根をぐんぐん伸ばす。タイミングを見ながらちょっとずつ追肥してあげると吸収率がぐっと上がる。V字に比べて手間はかかりますが、足腰がしっかりした稲が育ち、枯れにくくなるんです」。



この手間のかかる「への字型栽培」を“価値のあるもの”と理解してくれたのが、酒米農家の都倉さん。「龍力」からの提案を受け入れ、初めて専属栽培契約が結ばれました。都倉さんの田んぼでは、今も10月中旬になると昔懐かしい稲木掛けの風景が広がります。近年は稲穂を乾燥機にかけることが一般的ですが、それでは発芽率が低くなるのがネック。稲木掛けをして自然乾燥させることで発芽率が100%近くまで上昇します。


「発芽率が上がるという事はお米が生きているという事です。生きているお米でお酒を造ると、香りや味わいの風味が深く長く続きます。龍力は“米の酒は米の味”を基本としているので、米の生きた風味を楽しんでいただきたいと思っています」。


とはいえ、稲木掛けは背丈ほどある土台に一束一束かけていく体力や技術のいる作業。「年齢や体力的にも年々稲木架けをするのが大変になってきているけれど、龍力とは25年以上の付き合いがあるからね。出来る限りは続けていきたいよ」。そんな都倉さんの声からも、米づくりにかける情熱や「龍力」との関係性の深さが伺えます。


専属栽培契約という前例がなかった当時は、 “あんたらの酒のためだけに、米なんか作ってられるかい”と門前払いされるような時代。しかし、時間やお金を惜しまず日本のロマネコンティを作るんだという熱い気持ちをぶつけ、農家とともに最高の米づくりに取り組み続けた「龍力」。そうして、テロワールを最大限に生かし、素材にいっさいの妥協を許さず造り上げた大吟醸『秋津』で、12年ぶりに全国新酒鑑評会にて金賞に返り咲きました。

大地を味わうテロワール旅へ


受賞をきっかけに、専属栽培契約の輪を広げていった「龍力」。そこで新たな疑問にぶつかります。


「近しい地域で、同じ栽培方法で、同じ山田錦という品種を作っているのに、発酵の具合や味のキレが農家によって全然違ったんです。水質や気候、地形などいろんな観点からQ&Aを繰り返しましたが、特に大きな違いがなくて。そこでまた指標となったのが、ロマネコンティ。土壌に違いがあるのではないか、という仮説に行き着いたんです」。


土壌研究の中心となったのは大叔父の武義さん。65歳で京都大学大学院に入学し、亡くなるまでの20年間研究を続けました。加古川の支流である三草(みぐさ)川、東条(とうじょう)川、美嚢(みのう)川に沿って土壌の特性をとらえた結果、明らかになったのは土中のMg(マグネシウム)含量がそれぞれ異なること。それがお酒のキレと苦みに影響していたのです。



「大叔父は、土が味わいに影響するという“答え”だけを私にくれてこの世を去ってしまった。だからそれを徹底的に深掘りするのが私の使命だと感じました。テロワール館は、大叔父からつないできた、ぼくらの研究の功績を形にしたものです」。


そういって龍祐さんが案内してくれたのは本社1階にある「龍力テロワール館」。多くの人に気軽に「龍力」のルーツや日本酒の魅力について知ってほしいとの思いで、2020年11月にオープンしました。



足を踏み入れるとまず目に入ってきたのは、壁一面にずらりと並ぶ土壌の標本。兵庫県の「特A地区」の土壌から龍祐さんらの手で発掘したものです。



「目をつむって味わうと、その土地の情景が浮かんでくるはず。テロワールに想いを馳せながら飲み比べてみてください」と差し出されたのは、「龍力」の純米酒『純米テロワール』。特A地区を大きく3つに分けた、社(やしろ)地区・東条地区・吉川(よかわ)町の風土の違いを味わえるシリーズです。


「社地区は山田錦にとってベストな栽培環境が整っているので、『社』は甘みがあり、苦み、渋みが少ないという品種としての味わいが大きく出ます。東条地区の土壌はCEC(土壌の保肥力)の数値が高く、養分が多く含まれているため、『東条』は香り・味わい・酸・余韻のバランスが良く、全体的に滑らかさを感じるお酒に。『社』以上に爽やかな後味がしっかりと感じられます。吉川町の土壌はMgを多く含むため、『吉川』は舌の上で転がすとピリピリと心地よい酸の風味を感じられる、インパクトのある一本です」。


龍祐さんの言葉の一つひとつに納得できる、個性豊かな『純米テロワール』。想像もつかないほど悠久の時を経た大地そのもののうま味が酒の味となる、まさにテロワールの本質を日本酒は顕現させます。

宴JOY 日本酒!「龍力」の終わらない挑戦


「おいしい酒を作っても、まずは知ってもらわなければ意味がない。なのに、日本酒ってスキーで言うところの初心者コースがないと思うんですよね。滑れて当たり前、ついて来れて当たり前みたいな」。



そんな気付きから“日本酒のイメージを変えたい”と龍祐さんが企画したのが「ドラゴンシリーズ」。カラフルなラベルとドラゴンのデザインが目を引く日本酒です。冷なら“青ドラゴン”、燗なら“赤ドラゴン”など、直感的に分かりやすいよう工夫されていて、取り扱う飲食店も増えています。


食事とのペアリングが入念に計算されているのもポイント。お寿司と相性抜群という辛口の黒ラベルは、シャリをイメージして後味にキレのあるお酒を目指し、龍祐さん自ら寿司屋を訪ね歩いて研究の末、完成しました。「いつか若者の間で“今日は黒ドラで!”みたいな合言葉ができればうれしいな」と龍祐さんは少年のように目を輝かせます。



「龍力」では、熟成酒の普及にも力を入れています。


世界遺産「姫路城」を目当てに、国内のみならず海外からも多くの観光客が訪れる姫路。その強みを生かして、世界中の人に日本酒を知ってもらうべく、日本酒の盲点に切り込みます。


「たとえば海外の方が日本へ旅行に来た時、やっぱり日本の料理、そして日本の酒が飲みたいと思います。和食には吟醸酒があるけど、じゃあ神戸牛にはと言われると…赤ワインかな。でもそれってちょっと残念なことだと思いませんか?」。


熟成酒の魅力を発信する拠点として、2021年11月に姫路城近くの複合文化施設「イーグレひめじ」内に、熟成古酒専門店「玄妙庵」をオープン。古酒の購入はもちろん、その場で好みの古酒をブレンドして、自分だけのオリジナルカクテルが作れるというエンタメ性が注目されています。



「吟醸酒の味わいは、大きくいうと“香り・味わい・酸”という三角形の構図で表せます。これは白ワインに似た構図で、この3つが合わさった軽やかで薄味といった特徴が、魚料理などの和食によく合うとされています。そして赤ワインに例えられるものが、最低3年以上寝かせる熟成酒。熟成酒は、吟醸酒の構図に“渋み・苦味”が合わさった五角形のチャートを成します。これは赤ワインによく似ていて酒の質感が重いため、肉料理などの洋食との相性が抜群。爽やかな吟醸酒と、しっかりとした熟成酒の二刀流で、食の楽しみの幅が広がるというわけです」。



「私はものづくりというのはマラソンリレーだと思っています。造ってそこで終わりではなく、おいしいを追及し続けて、それを届けていく。そのバトンを大叔父、父から受け継いできました。全国の日本酒の中で熟成古酒は、まだ0.0009%しかありません。しかし未来はあります。龍力は新しい日本酒の価値を生み出していきます」。


2021年には、イギリスで行われた世界最大規模のワイン品評会「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」で、「龍力」の大吟醸『米のささやき YK-35』がゴールドメダルを受賞。次いでフランスで行われた日本酒コンクール「KuraMaster」でも、純米酒『純米ドラゴンEpisode3』が金賞を受賞するなど、海外でも高い評価を得た「龍力」の酒。


しかし、それでも。5代にわたり本田家に受け継がれる“挑戦”の血は、現状に飽くことなく、常に新しい可能性や文化、発見を求め沸き立つのです。

➡︎「龍力テロワール館」、直売店「タツリキショップ」、熟成古酒専門店「玄妙庵」の詳細はこちら

龍力のお酒が購入できる場所

■取材先:「龍力」(株)本田商店

■公式サイト:https://www.taturiki.com/

■住所:

・「龍力テロワール館」(本社内)Google map

・直売店「タツリキショップ」Google map

・熟成古酒専門店「玄妙庵」Google map

■問い合わせ先

・TEL:079-273-0151
・E-mail:info@taturiki.com

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