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瀬戸内に暮らしとアートを訪ねて──家島と直島をめぐる島旅
姫路から船に揺られてたどり着く家島は、瀬戸の海に寄り添う小さな漁師町。港には漁船が並び、朝に揚がったばかりの魚が軒先に並ぶ。路地に入れば猫がのんびり寝そべり、行き交う人が気さくに声をかけてくれる。旅人もいつしか島の暮らしに溶け込んでいくような心地よさがある。
そこからさらに海を渡れば、現代アートの舞台として知られる直島へ。静寂の中に佇む現代建築や、光や風を取り込むようなそこかしこに点在するアート作品に身をゆだねるひとときは、日常を超えた特別な体験。
素朴な暮らしの温もりと、非日常のアートが織りなすコントラスト。この二つを巡る旅こそ、瀬戸内だからこそ味わえるかけがえのない時間となる。
採石場で採掘された石を全国に運ぶダイナミックな「ガット船」は、島を代表する風景のひとつ。
姫路港から船でわずか30分。瀬戸内の海に浮かぶ家島諸島は、大小44の島々からなる穏やかな群島。中心となる家島本島は、坂道と路地が入り組む漁師町の雰囲気が残り、散策すれば島の日常に溶け込むような体験ができる。他に人が住む島は、活気ある漁港を抱える坊勢島や石の島らしい雄大な景観が広がる男鹿島、島の西半分が採石地域の西島。4島で約4,000人が暮らしている。
観光化されすぎていない素朴さも魅力のひとつ。釣りや島歩き、漁師料理に舌鼓を打ちながら、瀬戸内の人々の暮らしを体感できる「暮らすように旅する」スタイルにぴったりの島々だ。
漁師と海へ、獲れた魚でつくる“島ごはん”体験
「家島ハレテラスに泊まって底引き網漁で魚食体験」では、「底引網見学」(参加人数1〜10名乗船可能、約2時間半で一律45,600円)と、獲れた魚を宿に持ち帰って島のお母さんと一緒に料理をするプラン(約2時間の体験で、人数により12000円〜18000円程度)がセットになっている。
家島本島で、暮らしを体験できるアクティビティに参加することに。瀬戸内海の東部、播磨灘に浮かぶ家島では、ハモ、エビ、カニ、マダイ、ヒラメ、タイなど、多彩な魚介に恵まれている。今回は熟練の漁師と一緒に船に乗り、底引網漁を教わる。底引き網漁とは、海底に網を沈めて、船を走らせ網を引き、魚を獲る漁法だ。


島民の約7割が漁師という坊勢島出身の森さんの船に乗船することに。
漁師・森さんの船に乗り込み、坊勢島や男鹿島、西島といった家島諸島を横目に眺めながら、約40分かけて沖合へ。海に網を沈めて20分~45分ほど(季節により時間は変動)船で引っ張ると、漁師さんの合図でいよいよ引き揚げの瞬間。ずっしりとした重みに胸が高鳴る。「さて、今日はどんな魚が獲れたのだろう?」。



本日の収穫は、ヒイカ、ガラエビ、ハモ、タイ、小エビ、カマス、ウボゼなど。獲れた魚を「家島ハレテラス」のキッチンで調理する。
漁業体験のあとは体験付き宿泊施設「家島ハレテラス」で、家島の料理名人に教わりながら、獲れたばかりの魚で島ごはんを作る。今晩のおかずは、ヒイカとウボゼの煮付け、タイの刺身、小エビと玉ねぎのかき揚げ、島では祝い事で食べるというタイを煮付けた汁に素麺を絡ませた「タイソーメン」。
魚づくしの島料理に舌鼓。料理も体験ツアー料金に含まれる。
姫路の宿泊の予約
いえしまコンシェルジュと巡る、家島のまち歩き
右は中西さん。ガイド料は所要時間約6時間で1グループ3万円から。英語以外でのガイドは通訳帯同推奨。
翌日は、いえしまコンシェルジュの中西和也さんと一緒に島内を散策。家島の港町には、どこか懐かしい昭和の風景が残る。対岸には、今も稼働を続ける採石の島々が見え、鉄の産業と豊かな自然が共存する独特の景観が広がる。静かな時間の流れの中に、島の息づかいを感じられる場所だ。
「家島は、自分で楽しみを見つけられる旅人にぴったりの島です」と中西さん。のんびり歩きながら、家島ならではの暮らしと景色に触れられる贅沢なひととき。


漁師の旦那さんが朝漁で釣った魚介類を、路上で奥さんが売る光景も。
島民の憩いの場になっているたこ焼き屋さん「ANGE」の女将が自転車を貸してくれて、島内サイクリングをすることに。レンタル自転車もある。家島観光事業組合では、電動アシスト自転車が1台5時間1500円、高福ライナーでは自転車が1台一日600円。
海に向かって佇む鳥居。
家島神社は、宮港近くの高台に建つ由緒ある社で、天神(あまつかみ)を祀り、古くから漁業や航海の安全を見守ってきた島の信仰の中心だ。境内からは瀬戸内海や島の町並みを一望でき、散策途中に立ち寄れば、島の歴史や文化に触れながら絶景も楽しめる。
漁師町ならではの豪快な鍋料理

じゃこ鍋コースは一人8,250円。大ぶりに切って串に刺した魚を、順に出汁に入れてしゃぶしゃぶして食べていくのが王道だ。
真浦港に面した料理旅館おかべの「じゃこ鍋」は、瀬戸内の海でその日に揚がった魚介を惜しみなく使った、豪快で贅沢な一品。ハモやタイ、ヒラメ、カニ、エビなど季節ごとの旬の魚介を大鍋に入れ、昆布や魚のだしでシンプルに煮込むことで、素材本来の旨味が凝縮されたスープに仕上がる。元は市場に出せない小さな魚を食べるための漁師鍋を、島おこしのためにアレンジした。
湯気とともに立ちのぼる香りに食欲をそそられ、一口すすれば、魚介の濃厚なコクと磯の香りが口いっぱいに広がる。ぷりぷりの身や旨味を吸った野菜を頬張れば、漁師町ならではの力強い味わいに思わず笑みがこぼれる。しめは、魚の出汁がぎゅっと凝縮した卵雑炊で。
体も心も温まる家島の漁師鍋は、この地を訪れたらぜひ味わいたい逸品だ。
一棟貸しの島宿に泊まり、島の暮らしを体験する
窓から海が見渡せる「家島ハレテラス」のリビング・ダイニング。1泊4名で4万6,000円から。料金は季節や人数、平日・休日により変動する。
一棟貸し宿泊施設の「家島ハレテラス」は、家島の玄関口である真浦港を見渡せる高台にある。漁業体験付き宿泊のほか、島の散策やものづくり体験など、日常に寄り添うアクティビティも用意されており、観光地巡りとは違った“島の暮らしそのもの”を楽しめるプランがある。旅人にとっては、ただ泊まるだけでなく「島に受け入れられるような感覚」を味わえる宿だ。
寝室は4部屋ある。
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島全体が美術館。バイクでめぐる直島の一日
島内ではデジタルデトックスをして、内省の時間を過ごしたい。
家島から本州に戻り、岡山から直島行きのフェリーに乗り継いで約15分。瀬戸内海に浮かぶ小さな島・直島へ。人口わずか3,000人ほどの島だが、いまや「アートの聖地」として世界中の旅人を魅了する島だ。
直島では、島全体が屋外美術館のように設計され、道を歩くだけでアート作品に出会う体験ができる。港に降り立つとまず目に飛び込むのは、草間彌生の作品「南瓜」の巨大な彫刻。海と空を背景に浮かぶその存在感は、直島を象徴するランドマークだ。島内には、建築家・安藤忠雄が手がけた「地中美術館」や「李禹煥美術館」、古民家を使った「家プロジェクト」などが点在し、アートと島の暮らし、自然が一体となった風景を創り出している。


「直島コーヒー」で焙煎しハンドドリップで淹れる「直島コーヒーブレンド」は700円。コーヒー豆やドリップパックはお土産としても人気。
アート鑑賞の合間に立ち寄りたいのが「直島コーヒー」。2025年5月に開館した「ベネッセアートサイト直島」10番目の施設「直島新美術館」から徒歩約5分、海を望む高台に佇むカフェ。
大きな窓いっぱいに広がるのは、瀬戸内の海を借景にした絶景。カップを手に、ただ何もしない時間を過ごす——そんな贅沢がここでは叶う。
直島の穏やかな風景をイメージして焙煎されたオリジナルブレンドは、まろやかな苦味と豊かな香りが特徴。直島新美術館カフェでも提供され、観光客だけでなく地元の人たちにも愛されている。
「直島カフェ コンニチハ」の前にあるベンチで小休止。
島内散策で小さな路地を入ると、隠れ家的な古民家カフェを発見。「直島カフェ コンニチハ」の店内は飾らない“ゆるカフェ”で、海を眺めながらボリュームたっぷりのカレーやリゾットが味わえる。
草間彌生「赤かぼちゃ」2006年直島・宮浦港緑地/真っ赤な夕焼けに染まる直島の玄関口・宮浦港を背景に。
「直島ツアーズ」によるレンタルバイクで巡る直島の一日ガイドツアーは、半日コース3万円から(ツアー価格や対応内容は時期によって変動)。リクエストに合わせた特別なプライベートプランで、直島のアートや食の魅力を丁寧に案内してくれる。
「家島ハレテラスに泊まって底引き網漁で魚食体験」/(一社)家島観光事業組合
レンタル自転車/(一社)家島観光事業組合
https://h-ieshima.jp/news/5345
いえしまコンシェルジュによる家島観光ガイドツアー
料理旅館おかべ
http://ieshima-okabe.travel.coocan.jp/
一棟貸し宿泊施設「家島ハレテラス」
直島コーヒー
https://www.instagram.com/naoshima_coffee/
直島カフェ コンニチハ
直島ツアーズ




