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“メイド・イン・ジャパン” でファッションを感じる
1868年の開港後、テーラーによって洋装が普及した神戸は、上質なファッション文化が醸成され、“良いものを長く愛する”精神とスタイルが育まれた。神戸発のメイド・イン・ジャパンは、技術だけでなく、その精神のことでもある。ファストファッションが席巻する今も、メイド・イン・ジャパンが宿る神戸と岡山県児島を歩き、ファッションとは何か?を感じる旅へ。
ファッション都市宣言を形にした美術館
円盤のような部分はファッションショーなども行われるホール。
名誉館長であるコシノヒロコさんの展示コーナー「KH FASHION BOX」。
神戸は、1973年に「ファッション宣言」をおこなっている。
その理念を具体化する施設として1997年に誕生したのが「神戸ファッション美術館」だ。ファッションをテーマにした日本初の公立美術館で、18世紀以降の西洋衣装や民族衣装、に関する資料の展示を行うほか、特別展を企画実施している。神戸にとってのファッションは、衣だけでなく、食・住・遊という生活文化産業全般にかかわるもの。足を運ぶと、暮らしを振り返るきっかけにもなる。
ライブラリーでは、国内外のファッション関連の蔵書約45,000冊のほか、20世紀初頭からのファッション雑誌のバックナンバーなどを開放。学生や若手デザイナーの学びの場にもなっている。
2025年の夏に開催していたドレスコレクション展「ザ・フェスティバル -世界のお祭りと舞踏衣装-」
神戸を訪れる際は、市街地までのアクセスが良好な神戸空港を利用するのもおすすめだ。
神戸の“ベーシック”を支えるセレクトショップ
神戸市中央区にあるビショップ1号店。
ショーウィンドウは、シーズンのコーディネートを。
1994年に神戸に誕生したセレクトショップ「ビショップ」。「ダントン」や「オーシバル」「ジムフレックス」などベーシックなブランドを通じて、30年にわたって「最高のふつう」を提供し続けている。
創業時は「ストリートを面白く」をコンセプトに、アバンギャルドなブランドを展開していたというが、95年の阪神・淡路大震災で被災した人たちに服を提供した際、日常着の大切さを実感したことが、今の原点をつくった。
1950~60年代、フランス海軍に制服を提供していたオーシバル。
例えばオーシバルのカットソーは、年齢、性別を選ばず、いつでも誰でも着られる。どんなスタイルにも合わせやすいタフなアイテムだ。トレンドに左右されず時代も選ばないのは、1939年に設立されたオーシバルの歴史が証明。店長の田原明音(たはら あかね)さんは「10年前に買ったものがまだ着られるので、実感をもっておすすめできます」と言う。
「神戸では、お母様が着ていた洋服をお子様が受け継いで着るというシーンをよく見ます。良いものだからこそできること。そんな神戸のファッションを支えていきたい」とは、マーケティング部の小澤柚花(おざわ ゆうか)さん。
全国に43店舗を展開するビショップは、今年、初の海外店舗として韓国に出店。「最高のふつう」は韓国でも注目を浴びている。
神戸空港は2025年春に韓国及び台湾、中国との定期チャーター便が就航し、今後ますます神戸へのアクセスが整っていくことが予想される。
什器にも曲線を持たせるなどして、ブランドのアイデンティティとリンクした店内。
昨年は、ビショップでも取り扱う韓国のブランド「eunoia(ユノイア)」が、国内初となる旗艦店を2階にオープンした。ここでは、韓国の彫刻、建築、陶器などがもつ曲線をインスピレーションにしたアイテムと、日本の伝統素材がいかされている内装のコラボレーションを楽しめる。
世界のアスリートに愛されたスポーツシューズのその後
MEXICO 66シリーズ。メタルカラーがコーディネートを格上げ。
神戸発祥のファッションブランドには、「オニツカタイガー」がある。
1949年にスポーツシューズメーカーとして創業し、バスケットボールやマラソンシューズなど競技用のモデルを開発したオニツカタイガー。1964年の東京オリンピックではオニツカタイガーを履いた選手が大活躍するなどし、一躍、「世界のオニツカタイガー」として名を馳せた。1977年から2002年の休止を経て復活した際、世の中はハイテクスニーカーのブームを終えてレトロブームを迎えたとき。同年に発売した「MEXICO 66」がその波にのって人気を博し、現在も代表作として君臨。MEXICO 66は、1968年のメキシコオリンピックに向けて開発されたモデルをモチーフにしたシリーズ。オニツカタイガーは再び世界に戻ってきた。
細身のシルエットとバラエティ豊かな素材がカジュアルスタイルからスーツスタイルにまで合うと、日本国内のみならず、海外で人気を博しているオニツカタイガー。その背景には、デザインだけでなく、機能の進化もある。現在のMEXICO 66シリーズには、反発性に優れ、快適な履き心地をサポートするインソールが採用されている。
1980年代の「ALLIANCE」をルーツにして進化した「TIGER ALLY」(上)など。
創業者の鬼塚喜八郎の成功には、神戸港から入ってきた西洋のあらゆる文化や産業が影響しているという。また、神戸でゴム産業が盛んだったことも追い風になった。神戸から世界に羽ばたいたオニツカタイガー。
代表的なトレードマークのオニツカタイガーストライプは、神戸港の海の波をモチーフにしたという説もある。
今年の8月に発売された「TIGRUN」。
アウターソールには虎柄や肉球。
神戸市三宮にあるオニツカタイガー神戸店。
コンバースで感じる日本のクラフトマンシップ
日本で開発されたランドセル用合成皮革「クラリーノ」を使用したオールスター。
周(しゅう)さんの娘・柿本香苗(かきもと かなえ)さんと。
「柿本商店」では、細部に宿る日本のクラフトマンシップをコンバースで体感できる。
神戸元町商店街にある柿本商店は、1968年創業の靴店。棚にぎっしり並べられたスニーカーは、すべてコンバースだ。かつては、日本の3大靴メーカーと呼ばれていた「月星化成(ムーンスター)」「アサヒシューズ」「世界長ユニオン」を海外に輸出する仕事をしていた社長の周春陽(しゅう しゅんよう)さん。作りの良い日本製の靴は好評だったというが、円高の影響で事業の方向転嫁を余儀なくされ、1980年ごろにコンバースの専門店に。さらなる転機は2000年の米コンバース社の倒産。そのうわさを聞いた周さんは、「ここからコンバースの価値と人気が出る」と確信し、約2万足のコンバースを仕入れたという。周さんの読みは当たり、柿本商店には国内外からコンバースを求める客が押し寄せるようになった。
商品には、サイズ、値段、香苗さんのメモがついている。
日本ならではのデザインも人気。
ムーンスターの工場でつくられている日本製のコンバースもある。目印は、ヒールのロゴにある「MADE IN JAPAN」の文字。柔軟なキャンバス素材や上質なゴム素材でつくられた
日本製は足によく馴染み、疲れにくい。履き違いを楽しむコンバースマニアにも人気だ。
ヴィンテージで温故知新を知る
店内には嶋田さんの“フィルター”がかかったアイテムが並ぶ。
1990年代に起きたヴィンテージブームの影響で、今、日本には世界中のヴィンテージアイテムが集まっているといわれている。そんななか、神戸でヴィンテージのセレクトショップ「FILTER」を営むのが、嶋田哲也さん。実店舗販売がモットーなのは、街に賑わいをつくり、生まれ育った神戸に少しでも恩返しがしたいという思いからだという。
看板商品はデニム。1940年代にアメリカのデパート「モンゴメリーワード」がつくったデニムジャケット、レザーパッチのリーバイス……。2022年にオープンした新星ながら、国内外に開拓した仕入れルートをもち、ヴィンテージの造詣も愛情も深い嶋田さんのセレクトセンスは知る人ぞ知るところとなり、日本国内のみならず、海外からわざわざ足を運んでくる人もいる。
ステッチなどからジーンズの背景がわかる。
リーバイスのファースト、セカンドモデルのデニムジャケット。
「デニムの魅力は、何にでも合わせやすいこと、作業着だったルーツをもつことから頑丈で、ボロになっても味わいがあるところ。人生を共にする時計のようなものですよね」という嶋田さんにも、“よいものを長く”の神戸スピリッツが宿る。「FILTER」には、購入した商品のアフターサービスもある。
高校生のときにヴィンテージと出会った嶋田さん。
インディゴの落ち具合から、どの時代にどこの国で染められたものか、どんな体型の人が履いていたかまでわかることや、それらを反映した市場価値も興味深いが、嶋田さんは「ひとつとして同じものがないヴィンテージ。その中から選ぶ楽しさを味わえたら十分。ものさしは、自分がかっこいいと思うかどうか」だと話す。「コーディネートにひとつ取り入れるだけで、その人だけの味わいがでてくるものヴィンテージの楽しさ。ぜひ、新しい自分を発見してください」
「FILTER」では、ヴィンテージの世界が少し身近になる。
神戸の宿泊の予約
国産ジーンズの聖地・児島へ
「ベティスミスジーンズミュージアム&ヴィレッジ」のジーンズ作り体験。
神戸から新幹線を使って約2時間。岡山県倉敷市には、メイド・イン・ジャパンを支えるジーンズ工場の集積地「国産ジーンズ発祥の地 児島」がある。
干拓地だった児島では、江戸時代から塩分に強い綿が栽培され、繊維産業が発達していた。一時は学生服でも日本一のシェアを誇ったが、綿から合成繊維の需要が高まる中、ジーンズに活路を見出したことが児島を国産ジーンズ発祥の地たらしめた。児島で初めてジーンズがつくられたのは、1965年のことだ。
かつては原料となる綿花栽培からはじまった児島は、今、紡績、染色、縫製、デニム加工工場など、関連業者の集積地に。繊維産業で栄えた時代から脈々と受け継がれてきた職人たちの技術も磨かれ、海外のハイブランドからも注目されるまでになっている。
バスの車内でデニム生地の豊富さを知る。
児島を堪能するには、縫製工場やジーンズショップなどをめぐる「ジーンズバス」が便利。金曜日から日曜日、祝日に1日6便運行する(乗降自由な一日券は大人620円、小人310円、1周約35分)。
外装はデニムデザインでラッピングされ、車内のシートや行き先表示もデニム。約15種類のデニム生地のパッチワークで彩られている。「デニムパーティー」というテーマのとおり、移動のひとときを楽しませてくれ、これから出会うジーンズへの期待も高まる。
ビルをよじ登るような大きなジーンズが目印。
約400メートルの通りに個性的なショップが並ぶ「児島ジーンズストリート」。朝市などのイベント時には、サンプル品や当日限定価格の商品販売も行われる。
「児島ジーンズストリート」は、児島駅からバスで約5分程度の味野にあり、「ベディスミスジーンズミュージアム&ヴィレッジ」は、味野からバスで約15分の「Jeans Museum Entrance」下車。
日本最古のジーンズ工場も見学できる。
「ベティスミスジーンズミュージアム&ヴィレッジ」は、日本で唯一のジーンズのアミューズメントパーク。ここでは、ジーンズの歴史や製作工程を展示紹介。ジーンズ作り体験工場や買い物ができるベティズストアのほか、カフェもある。生地から素材を選んで職人が仕立てる、世界に一本のオーダージーンズ(要予約)の注文も可能。
ジーンズ作り体験(要予約)では、好みのジーンズにボタン、リベット、皮ラベルをカスタマイズ。自分だけのオリジナルジーンズをつくるひとときは、クラフトマンシップ体験のひとときでもある。
神戸ファッション美術館
ビショップ
ユノイア
オニツカタイガー
https://www.onitsukatiger.com/jp/ja-jp/
柿本商店
https://www.kobe-motomachi.or.jp/shop-search/388
FILTER
https://www.instagram.com/filterkobe/
ジーンズバス
https://shimoden.net/rosen/kikaku/jeans.html
児島ジーンズストリート
ベティスミス