TOP淡路島・由良が誇る『川勝のうに』。素潜り漁師としての覚悟と自然への畏敬
洲本市 - 赤ウニ/川勝うに加工

淡路島・由良が誇る『川勝のうに』。素潜り漁師としての覚悟と自然への畏敬

公開日|2022年2月17日

自然に恵まれ、タマネギをはじめとする農作物や豊かな海産物が収獲される淡路島。明石海峡・大阪湾・紀淡海峡に囲まれ、海の生き物が育つのに格好の場となっている港町・由良(ゆら)では、素潜りによるウニ漁が伝統的に行われてきました。中でも、“幻の赤ウニ”と称されるほど評価されている『川勝のうに』の収獲・加工・出荷を手掛ける川北勝彦さんに、由良でのウニ漁や取り組みについて聞いてみました。

川北勝彦(かわきたかつひこ)(川勝うに加工)

川北勝彦(かわきたかつひこ)(川勝うに加工)

「川勝うに加工」代表。元潜水協会会長で、現在は由良町漁業協同組合理事を務める。ウニ取り名人として知られ、メディアにも多数出演。収獲、加工したウニはブランド『川勝のうに』として、全国的に知られている。

地形の利を生かした天然の良港・由良港

トンビやカモメが飛び交う群青色の大空に、キラキラと輝く大海原。淡路島の南東端、兵庫県洲本市にある由良(ゆら)港は、春先から夏にかけて良質な「由良ウニ」が獲れることで全国的にも広く知られています。南北約2.5キロにわたって紀淡海峡を走る成ヶ島(なるがしま)が自然の防波堤となり、湾内は穏やかな表情を見せています。

「漁師町独特の人の温かさですかね。みんな家族、みたいな」。
由良の町の魅力についてこう語るのは、由良で生まれ育ち、漁師を始めて40年になる川北勝彦さん。同じく漁師で、現在もウニの加工を行う父・國彦さんにならって15歳の時に初めて海に潜り、ウニのほか、サザエやアワビ、ナマコの収穫を素潜りで行っています。
「海は自分にとって身近な存在。小学生の時から磯のものに触れて、それを食べて育ってきました」と勝彦さん。収獲から加工、出荷まで行う6次産業に着手し、「川勝うに加工」を興して12年。現在は8人のメンバーで運営し、ブランドウニ『川勝のうに』を全国に届けています。

美食家も唸る『川勝のうに』

由良では、5月はムラサキウニが、8月は赤ウニが旬を迎えます。特に赤ウニは“幻の赤ウニ”と呼ばれるほど貴重で、“ウニ取り名人”と名高い勝彦さんでも、1日約4時間の漁でわずか15~20個しか獲れない時期もあるのだそう。その味の深みと甘みで人々を魅了し、美食家たちを唸らせる由良のウニ。他の地域のウニと何が違うのか。その答えは由良の海の特徴にありました。

まずは、海に流れ込む豊富なミネラル。由良をはじめとする淡路島は自然が豊かで、山々が育んだ栄養素が海に流れ出します。さらに、黒潮の強い流れが由良の海全体に栄養素を行き渡らせ、魚やウニが育ちやすい環境をつくっています。ウニの食料となる海藻が豊富なのも、ウニが良く育つ条件の1つです。

「由良はとにかく磯が良い。磯が良いとウニが住む岩場の環境も良くなるから、良いウニが育つんです。どこのウニにも負けらんと思いますね。おいしいですよ、由良の赤ウニは」。勝彦さんの堂々とした語り口調からは、由良の漁師としての誇りと自信が伝わってきます。磯、山のミネラル、豊富な海藻……生息地・栄養・食べ物のすべての条件がそろっているからこそ、由良のウニは甘くて粒が大きく、濃厚な一級品となるのです。

ウニはとてもデリケートな生き物。刺激を与えると質が落ちてしまうので、「川勝うに加工」では、殻を割り、身を取り出し、真水で洗って木箱に並べる際に、なるべくウニに触れないようとても素早く作業を行っています。「由良のウニは身崩れを防ぐための添加物・ミョウバンを使っていないので、より新鮮でおいしく味わってもらえます」と勝彦さん。作業を行うのは、勝彦さんの母で、この道60年の百合香さんなど、頼りになるスタッフ。ベテランたちの手によってあっという間に木箱に並べられた『川勝のうに』は一級品として、東京・豊洲や大阪、京都などの市場へと出荷されています。

洲本市にある寿司屋「金鮓」では、『川勝のうに』を贅沢に使用した寿司を堪能することができます。「由良のウニは上質で、本当においしいです。醤油も良いですが、おすすめはシンプルに塩で」と大将の溝口さん。『川勝のうに』は生臭さが全くなく、口に入れると文字通りとろけるような舌ざわり。豊かな磯の香が口いっぱいに広がります。

伝統の素潜り漁は体力勝負

一般的にウニ漁は、小舟に乗って覗き眼鏡で水中を確認し、ウニを見つけて船の上から収獲する「いさり漁」が知られていますが、由良では素潜り漁が主流。約70年前から盛んになったといいます。「素潜りのほうがウニがよく獲れるんですよ」と勝彦さん。

沖に着くと、素潜りのための装備を整え、海に飛び込みます。ウニの収穫に使うのは「がぜとり」と呼ばれる手作りの道具。使われなくなったピアノ線などを再利用し、先端を好みの角度に加工して、ウニをひっかけます。
「潜りますよ」と告げた勝彦さんはスーッと息を吸い込み、意を決したように一気に頭から潜水。時間が経つこと約20秒……固唾を飲んで船から見守っていると、数メートル離れた場所からウニを掴んだ勝彦さんが現れました。ムラサキウニは深さ約2メートル、赤ウニは深さ約10メートル地点にある岩場に生息しています。潜っては浮上し、潜っては浮上しを、酸素ボンベもつけずに1日の漁で約300回繰り返す作業は相当な体力勝負です。

「台風の日以外は、大雨だろうと大寒波だろうと船が出れば素潜りもやる。つらいことも多いけど、これで生活してるんでね。大物が獲れたりするとうれしいですね」。勝彦さんの表情からは、どれだけ厳しい条件でも、素潜り漁師として生きていく覚悟が深く刻まれているようでした。

由良の自然を守る環境保全活動

長年、由良の海に潜り続けてきた勝彦さんは、近年ウニが減少しているのが肌で感じられると言います。「海水温度の急激な変化でウニが死滅したり、森林伐採によって地盤が緩んで、海へ流れ込んだ土砂が岩場をふさいでしまったりと、ウニが育つ環境が壊されているんや。このままやと、若い人たちが漁で生活できなくなる」。

一念発起した勝彦さんは、2015年他の14人のメンバーとともに赤ウニの養殖に乗り出します。「由良の未来を守るには、まずは自分たちが行動を起こさなあかんと思ったんです」。養殖ウニが全て死んでしまった年もあったそうですが、後任メンバーの努力もあり、最近になって何とか商品化に近づいてきているとのこと。息子の圭吾さんが所属する青年部でも、海への土砂の流入を防ぐため山での植樹活動を行うなど、町の漁師が一丸となって取り組みが行われています。

由良の自然と生き物、そして町の人々の暮らしを守るべく、先頭に立って取り組んできた勝彦さん。ウニの素潜り漁の今後について聞いてみると、「減っていくかもしれませんね」という寂しさを含んだ答えが。「自分も素潜りを続けられるのはあと5~10年くらいかもしれません。でも、ほぼ毎年若い人が漁師を目指して由良に来てくれるので、少しでも長く素潜り漁が続いていけばいいなと思いますね」と未来への希望も感じられました。

覚悟と想いは未来の世代へ

息子の圭吾さんには、「自分(勝彦さん)を超える漁師になってほしいですね。素潜りの技術だけじゃなくて、出荷の仕方も今よりもっと考えていかんとね」と期待をにじませる勝彦さん。圭吾さんは3年間別の船で修業を行い、4年前に勝彦さんの船に乗り込むようになりました。
父親でもあり、師匠でもある勝彦さんは、圭吾さんの目にはどのように映っているのでしょうか。
「尊敬しますね、やっぱり。由良の中で誰よりも多くウニを獲るし。ウニ漁は、ウニを見つけることが難しい。探す時に見る場所とか視点は人によって違うんやけど、父はそれが上手いと思います」。

子どもの頃から海に親しみ、40年に渡ってウニ漁に携わってきた勝彦さん。長い時間をかけて研ぎ澄まされた漁師としての勘と培ってきた経験が、全国でも一級品と呼ばれる『川勝のうに』を育て、今に伝えてきたのです。

素潜り漁の準備をする父・勝彦さんと、船を操縦しながらサポートする息子・圭吾さん。

漁師になって7年目の圭吾さんにとって、漁は既に生活の一部で、当たり前の日常になっているそう。「素潜り漁は大変やけど、長く続けていきたい。由良一番の漁師になりたい」。素潜り漁は寒いと本当につらくて大変だと笑いながら語ってくれた圭吾さんの言葉からは、父への尊敬の念と、父を超える漁師になりたいという決意が伝わってきました。

「素潜り漁でご飯食べて生活していくには、資源を絶やさないように自分らで努力していかんと」と語る勝彦さん。勝彦さんの想いと技術は、次の世代へと確実に受け継がれています。漁師や町の人々の努力によって、私たちはその一粒で海を体全体に感じられるような逸品に触れることができるのです。

<川北勝彦さんの『川勝のうに』が購入できる場所>

  • 取材先

    川勝うに加工

  • 住所

    兵庫県洲本市由良1丁目21(由良郵便局前の道を挟んだ向かい側) Google map

  • 注文用電話番号

    090-3673-7307(担当者:新岡さん)

  • その他

    <川北勝彦さんの『川勝のうに』を使った料理が食べられる場所>
    金鮓
    兵庫県洲本市本町4丁目1-46

    松葉寿司
    兵庫県南あわじ市広田広田528-1

    鮨夢
    兵庫県南あわじ市山添261

    いたりあ亭
    兵庫県洲本市栄町3丁目1-43

    春夏秋冬いし井
    兵庫県淡路市志筑1882-2