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見慣れた町、宍粟市で出合った新しい景色
Contributor : ウ・ヨンジン
Nationality : 韓国
兵庫に住んで13年。今回訪れた宍粟市は、マラソン大会で何度か走ったことのある町です。見慣れた町だと思いきや、たくさんの発見がありました。ゆっくり歩いたからこそ出合えた宍粟市の魅力を紹介します!
鉄道のない宍粟市で、鉄道の役割を再発見。
裏庭には、宍粟市唯一の“鉄道の駅”がある。
鉄道がない宍粟市ですが、“夢の鉄道”がありました。宍粟市に到着してまず立ち寄ったのは、「鉄道模型ジオラマ交流館しそう夢鉄道」。NPOしそう夢鉄道が「鉄道模型で地域交流の場をつくりたい」という思いでオープンした施設で、改装した二階建ての古民家に、鉄道模型のジオラマ、電車の運転体験ができるコーナーがあります。
線路をはじめ山や町のつくりも精巧なジオラマを前にすると、巨人になった気分。ジオラマは、新幹線が走る大都市のほか、昭和時代の宍粟市の町並み、欧州の町並みの3種。
電車の運転士になりきって「出発進行しま〜す」
ジオラマでは、持ち込んだ電車(Nゲージ)を走らせてオリジナルの写真が撮影でき、裏庭にあるリアルな電車では運転士気分が味わえます。訪れた人が各々楽しそうに過ごしている様子を眺めていると、鉄道にはロマンがあり、ただモノや人を運ぶだけの乗り物ではないということが伝わってきます。鉄道ファンの“鉄男”さん、“鉄子”さん、そして子どもから大人までの幅広い世代で満足できる場所だと思います。
“お母さん”のおもてなしで心も体もぽかぽかに。
「旅館さつき荘」付近の里山風景。
宿泊は、田んぼに囲まれた静かなロケーションの「旅館さつき荘」にて。自家製の素材でつくる食事や快適な湯加減のお風呂、パリッとしたシーツの布団……。「昔ながらのぬくもりを提供する」というオーナー夫妻のモットーが、隅々に行き渡っている旅館です。
レトロな建物の「旅館さつき荘」。夕方、明かりに照らされた神秘的な門をくぐると、そこは昭和の日本。
ボリュームたっぷりの夕食。さらにおかわり自由のごはんでおなかいっぱい!
夕食のメニューは、新米を炊いたごはんと新鮮な野菜、ゆず味噌がのった鶏肉、刺身、焼き魚、アサリのお吸物など盛りだくさん。オーナーが育てた自家製米「ひのひかり」は、見た目はキラキラ、食感はモチモチ。鶏肉のゆず味噌でごはんがますます進みました。野菜もゆず味噌も自家製だそうです。
夕食のお供は宍粟市の地酒「播州一献」。刺身など魚料理とよく合いました。
希望の時間にできたてが食べられるように食事を提供してくれたのもうれしい心くばりだなあと思いながら、オーナー夫妻が食材から丹精込めてつくった料理を噛み締めました。「お風呂を用意しておいたから、入ってね」という一言も忘れられません。お母さんが世話をしてくれているみたいで、懐かしい気持ちで湯船に浸かりました。
レトロな雰囲気ながら、Wi-Fi完備でネット環境はストレスフリーの部屋。
お風呂上がりは、部屋で読書をしたり映画を観たりして一人の夜を満喫。自宅ではベッド派なので、畳の部屋に布団を敷いて寝るのは新鮮な体験。快適な寝心地に、日本の皆さんがよく口にして懐かしんでいる“古き良き昭和の暮らし”というものが、ちょっとだけわかった気がしました。
歓迎してくれたオーナー夫妻と記念撮影。
実家にいるような気分で過ごした「旅館さつき荘」。次に来たときは「ただいま!」と言ってしまいそうです。
赤、黄、オレンジ。鮮やかな紅葉に引き寄せられて。
初冬のもみじ山は360°紅葉の世界。
翌朝、町を散策しているときに目に止まったのは、紅葉した山と「もみじ祭り」の案内。この日はちょうど「最上山もみじ祭り」の最終日でした。
最上山公園の西側に位置するもみじ山は、毎年11月中旬から下旬にかけて色づき、その鮮やかな様子は「日本紅葉の名所百選」に選ばれています。
かつて、地元の人たちは、紅葉したもみじ山を見に来た人たちに歓迎の甘酒を振る舞っていたそうです。そのおもてなしを受け継いで開催されているのが「最上山もみじ祭り」。期間中(2024年は11月16日(土)〜12月1日(日))はイベントや出店、夜間のライトアップがあり、紅葉に負けじと5万人ほどの観光客が町に賑わいをもたらすのだとか。
頭上を飾る日に透けた色とりどりの葉に、階段をのぼる足取りも軽やかに。
紅葉のじゅうたんに紅葉のトンネル。都会ではなかなかお目にかかれない自然の美しさを眺めてリフレッシュできました。次回はライトアップされた紅葉も見に来たいです。
アートになる落ち葉。
日本酒発祥の地で、食と歴史、自然を味わう。
酒蔵通りでは、1700年代に創業した酒蔵などが当時の面影を今に伝える。「最上山もみじ祭り」期間中は通りに酒樽の展示がされていた。
お昼は、酒蔵通りにある「老松ダイニング」へ。1768年に創業した老舗酒屋「老松酒造」直営のレストランで、お目当ては酒屋ならではの発酵食ランチ。車の運転があるため日本酒はおあずけですが、酒蔵の重厚な雰囲気に心が躍りました。
宍粟市には、日本で初めて米を発酵させて酒をつくったという歴史があります。また、面積の9割を森林が占め、その山々から生まれる澄んだ空気と名水によって発酵文化が醸成されている宍粟市は、「日本酒発祥の地」であり「発酵のふるさと」。
今朝、ジョギングをしたのですが、鼻から入ってくる空気で頭や体がクリアになるような感じがしました。自然環境がいい宍粟市だから、美味しいお酒もできるんですね。
兵庫県の景観形成重要文化財に指定されている建物をリノベーションした「老松ダイニング」。窓から見える庭が建築を完成させたかのような完璧な内装。
古き良き日本は、老松ダイニングの庭でも堪能。
紅葉の時期限定の「発酵紅葉御前」(2,310円)。メニューは季節によって異なる。
舌だけでなく、目でも鼻でも、五感で楽しめるのが日本食の好きなところ。さまざまな食材がいっぱいに並んだ「老松ダイニング」の発酵食ランチは、まさに私好みの日本食。色とりどりの食材にふんだんに使われた麹。体がよろこぶようなメニューでした。
食事の際の酒はお好みで選ぶスタイル。日本酒は次回のお楽しみに!
千種川の水で和紙づくりに挑戦。
外国語対応は難しいため、通訳ガイド同伴か翻訳アプリ等を推奨しています
15歳から和紙づくりの世界に身を置き、24歳で工房を開いた吉留さん。
最後は、千種町の「播州ちくさ手漉和紙工房」を訪ねました。和紙の中でも最高級とされる雁皮紙を千種川の水と国産の原料を使って製造している工房で、ここでつくられた和紙は文化財の補修にも活用されています。
千種町では700年代から1950年代まで和紙づくりが行われていたといいます。千種川の水に惚れ、途切れていた町の伝統文化を復活させたのが工房の代表である吉留新一さん。工房では吉留さんの指導のもと、しおりとハガキ、厚紙づくりに挑戦しました。
紙漉きスタート!まずは水を張った漉き舟に原料を投入し、かきまぜる。
「すきけた」と呼ばれる道具で原料をすくって均等にならす。45cm×35cmの厚紙づくりとなると、なかなかの力仕事。思わず「重い!」と声が。
小さなハガキサイズも油断せずに、慎重に……。
初めての紙漉きでした。難しかったのは、「すきけた」で原料を均等に伸ばすこと。冷たい水に手をつけるのはつらかった……ですが、世の中に一枚しかない自分の紙ができるんだ!という期待で乗り越えました。
楓の葉とともに季節を封じ込めたしおりとハガキ(上)、自分で模様を描いた大判の厚紙。
つくった作品は天日干しにされ、およそ1週間後に自宅に届けてくれました。厚紙には、こんな模様になっていたのかとびっくりしました(笑)。作品のうち、ハガキは韓国にいる家族に宍粟市の写真と一緒に送ろうと思います。なめらかな触り心地かつ頑丈な和紙からは、宍粟市の自然の清らかさ、力強さも伝わりそうです。
今回の旅で、近くにある宍粟市がこんなに楽しいところだったことは新鮮な驚きでした。その魅力は、町を思い、人を思いやる地元の人のおもてなしと、豊かな自然がつくる食文化や伝統文化によるものでした。次に訪れるときは紅葉のライトアップ、日本酒も楽しみたいです。
スポット
鉄道模型ジオラマ交流館しそう夢鉄道
住所/兵庫県宍粟市山崎町山崎207-1
TEL/0790-71-2525
開館時間/10:00〜17:00(最終入館16:30)
開館日/原則土・日・祝日(不定休あり)
入館料/大人400円、子ども200円ほか有料コンテンツあり
http://www.irori-yumetetsu.com/
旅館さつき荘
住所/兵庫県宍粟市山崎町千本屋333
TEL/0790-62-8333
宿泊料/8,030円(一泊2食付き)
https://www.instagram.com/ryokan.satukiso/
最上山公園もみじ山
住所/兵庫県宍粟市山崎町元山崎
TEL/0790-64-0923
老松ダイニング
住所/兵庫県宍粟市山崎町山崎12
TEL/0790-62-2345
営業時間/11:00〜14:30(L.O.13:30)
販売所は10:00〜17:00
定休日/木曜日
播州ちくさ手漉和紙工房
住所/兵庫県宍粟市千種町河内533-1
TEL/0790-76-3716
体験料金/お一人さま2,650円(別途作品送料がかかります)